兄貴を 燃やした。



テレビなんかでよく見る白い幽霊みたいな着物は兄貴に全然似合わねえと思ったから学ランのまま燃やしてくれって言ったのに、金属はだめだとかなんとか言って結局兄貴は幽霊みたいになってやっぱり似合わなかった。
あと、ピアスも外せって言われたから外した。手が顔とかに当たったけど、冷たくてなんかニセモンみてえに思った。
ピアスは少し熔けてて、先端が煮えたまま固まっていた。

外しながら思い出したが、右の、ピアスは俺が開けさせてもらった。

中学の時、帰ったら兄貴が洗面所で左側を開けていた。
興味本意でねだって、右側を開けさせてもらった。
ピアスなんて人のどころか自分でさえ開けたことがなかったから、おもしろそうに思った。
カチン、ってなって、指にバネの感覚が残った。
それ自体はなんともなかったけど、穴が斜めになってるって、頭を叩かれた。

外したピアスは、ポケットにしまう。
動くと、小さくチャリチャリ鳴る。

花とかこれも似合わねえし逆に面白いから入れさせなかった。

結果、木箱に入った白い兄貴のニセモンが目の前に居た。
蓋されて、窓から見えるのはますますニセモンっぽくて、ちょっと笑っちまった。

それから窓閉められて、荷台に乗せられて、そのまんまデカイオーブンに入れられた。
なんか係りの人がゆっくりした動作で色々やっていたけど、よくわからなかった。

近くに立ってたオバサンに
「スイッチを、」
って言われて、ソッコーで押したら、オバサンは眉間にシワを寄せた。
変なエンジンみたいな音がし出して、俺はその場に突っ立ってた。

「…これ、途中で開けたり出来るんすか」
「は?」
「いやだから、もし中で生きてたりとかしたら、途中で開けれるんすか」
「…いえ、最後まで開けることは出来ません」
「ふーん。これ、どんくらいで兄貴焼けるんすか」
「……小一時間くらいです」

オバサンは全然こっちを見ようとしない。
一時間なんて長すぎるから、その間待合室の椅子で寝た。今度はオッサンが起こしに来て、白い部屋に連れてかれた。

白い台の上に灰と人間の骨があった。
なんかオッサンが箸を渡してきて、骨がどうとかこうとか説明してきたけど面倒くさくて、「よーするに壷に入れりゃいんだろ?」って言ったらオッサンも面倒くさそうな顔をした。
俺は適当にその辺の骨をひょいひょいと壷に入れて、デカイのは折って入れた。途中から箸も面倒になって、手づかみで入れた。
骨はでかすぎて砕いても白い壷はすぐに一杯になっちまって、オッサンにどうしたら良いかって聞いたら木箱をくれたから残りはそれに全部詰め込んだ。
蓋を閉じてから一度、もう一回蓋を開けて骨を一個取りだして食った。
オッサンは見なかったことにしたみたいだった。
骨はパサパサで昔学校で食ってみたチョークみたいで不味かった。けど飲み込んだ。

墓場はまた今度って言われてて、俺は骨の入った壷の入った箱と骨だけ入った箱(どちらも、また白い布で包んである。)二つを抱えて帰る。箱がカタカタ、ポケットのピアスがチャリチャリ鳴る。

家に帰ったら箱を食卓に置いて制服を脱いで、洗濯を取り込んで風呂を洗った。
飯はとりあえず昨日の残りを温めて、親父に持って行った。親父は写真を見ていた。俺は思い出して食卓に行き、箱二つを抱えて屋根裏へ行った。

「ほら親父、」

親父はちょっと顔を上げた。俺は箱を掲げる。

「これ兄貴」

親父の目は確かに箱を見ているのに、親父はそのまま何の反応も見せなかった。
箱を動かすと目で追う。
しばらく見せていたけど、飯が冷めるからまた箱を抱えて下の部屋に戻った。

茶碗二個に飯を入れて間違えた、って思って炊飯器に戻した。
でもやっぱり入れ直して食卓の箱の前に置いた。
それから温め直した野菜炒めも真ん中に置いた。

「箱とママゴトしてるみてえだ」

独り言をいいながら飯を食った。おかわりは箱の前に置いた茶碗のを食った。
風呂をためてる間に皿を洗って洗濯を畳んだ。
風呂入って出て歯磨きしながら風呂に入りなって呼ぼうと兄貴を探してああまた間違えた、って思って、風呂湯を抜いた。
寝ようと思って布団に入って、ポケットのピアスを思い出した。あと、明日兄貴の部屋(いつも入らせてもらえなかった)に入ってみようと思った。

明日が来る。
俺は目を閉じて、もういない兄貴におやすみを言う。













『密葬』










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