兄貴の部屋はあの日のままにしてある。
つうか兄貴の部屋はいつも物がキッチリしまってあって完璧だったから、片付ける必要がなかったと言えばそれまでなんだが。
たまに、埃は拭いたりしてる。

あとは、服を借りることもある。昔は兄貴のが大きかっのに、この頃調度良く、たまに小さくなってきた。

部屋に入るときはばれないように忍び足で入って、目当ての服を見つけたら一目散で出て、最後は音がしないよう慎重にドアを閉める。

もう何年も経つのに、まだたまに、兄貴を呼んでしまう。
仗助やトニオさんを呼ぼうとして間違えて兄貴、って言ってしまい、仗助やトニオさんに変な笑顔を作らせてしまうこともある。
(トニオさんはいつも笑顔だが、やっぱりいつもと違う顔になる。)

墓参りにはあまり行かない。
確かにそこに兄貴の骨を埋めたんだが、あんまりそんな気がしない。
もともと何かの日なんて覚えるのは苦手だし、こないだも康一に言われて初めて命日を思い出した。

親父は今も飯を良く食う。
猫草をつついたり写真を眺めたりしている。
たまに、ずっと窓の外を見上げている。

夜中に兄貴が帰ってきたときは決まっていつも二階に弓矢を仕舞いに行き、それから部屋で着替える音、風呂に入る音が順にしていた。たまに便所に直行して吐く音が聞こえる時もあった。
今は夜中に物音で目が覚めて、いくら続きを待っても、大概は親父が物を倒した音だったり、風や野良犬の音だったりする。
(一度ミキタカが鍵穴から遊びに入ってきたことはあった。)




もう、本当に何年も経つんだが

まだ俺はこの生活に慣れそうもない。











『Spica』










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