最初の理由は、まぁありがちだが、「目立つ」から。

兄貴は髪型も服装も顔だちも態度も、そりゃあ目立った。
そこそこ不良も多いのこの高校で、兄貴の格好は喧嘩叩き売り、って感じだ。

俺が見た訳じゃあねえけど、転校初日に教室で絡んできた雑魚の顔面を無言でぶん殴って鼻と前歯4本をオサラバさせ、
学年のリーダー格からの呼び出しを無視して校門で十数人に待ち伏せをくらったのに
今度は半笑いでリーダー格の両腕と左腿をめちゃくちゃにへし折り全治3ヵ月に仕立て上げた、らしい。

(おかげで俺は、兄貴が死んでからそういうやつらに絡まれるはめになった。)

(おんなじ制服だから黙っててもすぐばれた。)

(もちろんボッコボコにしてやったわけだが。)


兄貴はわずかな間に、不気味な存在として君臨した。

評判は極めて悪かった。


学ランは東京の学校で指定されていたものを改造した。(だから余計目立つ。)

俺はこっちに来て高校へ行きだしたのだから、学ランは本当はこっちのものでもよかった。

でも俺は兄貴の側の人間だから、兄貴とおんなじやつにした。(もちろん改造した。)

こっちの学校で俺たちはふたりぼっちのおそろいで、
俺だけかもしれないが、俺たちは誰にも負けない気がしていた。

それに誰にも邪魔されることなく、この街でたった一人知ってる人間を見つけることができた。
兄貴からも、俺が見つけやすかったらいいと思っていた。

(俺も兄貴も、どっちかを見つけたって話しかけることなんて一度もなかったけど。)


今、兄貴の制服は兄貴の部屋のハンガーにかかっている。

焦げてボタンが熔けて、少し穴が空いている。
見ていると、生きていた兄貴のことよりも、警察とかなんとかに色々調べるからって
しばらくして抜け殻みたいな制服だけ返却されたことを思い出す。

でもこれは兄貴が居たことの証拠だから、洗ってはいない。


証拠。

そうだ。


俺はいつか、兄貴が居たことを忘れるかもしれない、とたまに思う。

仗助や康一やみんなと居て、他人や物音を兄貴と間違えることは少なくなってきている。
もしかしたら始めから兄貴は居なかったのかもしれない、って考えてもそれをはっきり否定できるものはない。
始めから、って、何の始めか知らねえけど。

俺たちはずっと、ふたりだけだったから。他に誰も見ては居なかったから。
証拠がないのだ。

だから俺はいつか、兄貴が居たことを忘れることだってあるのかもしれない。
別にそれでもいいが兄貴のこと自体は忘れたくない。

(って仗助に言ったら、「オメーなんかロックだな」と言われた。)

なので兄貴を示すこの制服は、そのままにしておくことにしたのだ。
兄貴をすぐに、見つけられるように。

俺がこの高校を卒業したら、この隣に並べてかけようと思ってる。


兄貴は絶対、嫌がるだろうけど。


















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